大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成11年(ネ)2788号 判決 1999年11月29日

一審原告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

【A】

右訴訟代理人弁護士

田中豊

藤原浩

堀井敬一

一審被告

【B】

一審被告

【C】

右両名訴訟代理人弁護士

山本宜成

一審被告

有限会社ビデオメイツ

右代表者代表取締役

【D】

右訴訟代理人弁護士

木ノ内建造

主文

一審原告、一審被告【B】、同【C】、同有限会社ビデオメイツの各控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、各控訴によって生じた部分につきそれぞれの控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  一審原告の控訴につき

1  一審原告

(一) 原判決主文第三ないし第五項を次のとおり変更する。

(1) 一審被告らは、一審原告に対し、連帯して金九二六万六二九〇円及びこれに対する平成九年三月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員(但し、一審被告【B】及び同【C】との関係では、同年四月四日から支払済みまでの分のそれに限る。)を支払え。

(2) 一審被告【B】及び同【C】は、一審原告に対し、連帯して金四九一万九四五〇円及び内金一三二万三七五〇円に対する平成九年四月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は、第一、第二審とも一審被告らの負担とする。

(三) 仮執行の宣言

2  一審被告ら

一審原告の控訴を棄却する。

二  一審被告【B】及び同【C】の控訴につき

1  一審被告【B】及び同【C】

(一) 原判決中、一審被告【B】及び同【C】の敗訴部分を取り消す。

(二) 右部分につき、一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、第二審とも一審原告の負担とする。

2  一審原告

一審被告【B】及び同【C】の控訴を棄却する。

三  一審被告有限会社ビデオメイツの控訴につき

1  一審被告有限会社ビデオメイツ

(一) 原判決中、一審被告有限会社ビデオメイツの敗訴部分を取り消す。

(二) 右部分につき、一審原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、第二審とも一審原告の負担とする。

2  一審原告

一審被告有限会社ビデオメイツの控訴を棄却する。

第二当事者の主張

一  当事者双方の主張は、次の二ないし四のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決事実欄の「第二 当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。

二  一審原告の主張

1  一審被告【B】及び同【C】(以下、それぞれ「一審被告【B】」、「一審被告【C】」といい、また、両名を併せて「一審被告【B】ら」という。)による「ナイトパブG7」における一審原告の管理著作物の使用開始時期について

原判決は、「ナイトパブG7」は当初【E】が単独で経営し、その後一審被告【B】らが経営を引き継いだものであるとし、また、遅くとも平成三年一二月二七日には一審被告【B】らが同店を経営し、同日ころから同店における一審被告【B】らによる一審原告の管理著作物の使用が始まったものと推認することができるが、同月二六日以前に一審被告【B】らが同店において一審原告の管理著作物を使用していたことを認めるに足りる証拠はないとした。

しかしながら、一審被告【B】らが【E】から経営を引き継いだとの点に関しては、一審被告【B】の陳述書(乙第二七号証)に、【E】が平成二年八月二日に同店舗を借りたものの、開店しないまま放っており、同人の依頼でこれを引き継いだ旨、原判決の認定に沿う供述記載があるものの、一審被告【B】は、原審における本人尋問においては、この点につき明確な供述をしていないのみならず、【E】が同店のような店舗の経営に経験がなかったこと、及び一審被告【C】が開店の当初から経営に関与していることを認めており、かつ、同店舗の賃貸借契約書(乙第一四号証)によって、同契約上、借主の名義は【E】であるものの、一審被告【B】が連帯保証しており、その賃貸期間が平成二年八月二日から平成七年八月一日までであることが認められること等を併せ考えると、右乙第二七号証の供述記載は合理性がなく、これによって、同店を当初【E】が単独で経営し、その後一審被告【B】らが経営を引き継いだとの事実を認定することはできないというべきである。

そして、原審における一審被告有限会社ビデオメイツ(以下「一審被告ビデオメイツ」という。)代表者の供述によれば、平成三年一二月二七日の時点で【E】と一審被告【B】とが「ナイトパブG7」の営業に一緒に関わっていたこと、及び一審被告ビデオメイツが、カラオケ機器のリースを始めた右同日以前に、別のカラオケ機器が同店舗に備え付けられていたことが明らかであり、これに加えて、平成二年九月五日に同店が現に営業されていることを一審原告の職員が確認していること(一審原告職員【F】の陳述書(甲第六号証)五頁)、一審原告の職員が、平成五年一一月八日に同店のマネージャー【G】から、同店の経営者が一審被告【C】であり、同人が平成二年から同店を経営し、当時からカラオケを利用している旨聴取したこと(同六頁)とを総合すると、「ナイトパブG7」は、遅くとも前記賃貸借契約書上の賃貸期間の開始日である平成二年八月二日から、一審被告【B】らが【E】と共同して経営し始めたものと推認されるものである。

2  一審被告【B】らによる「パブハウスニューパートナー」における一審原告の管理著作物の使用開始時期について

原判決は、「パブハウスニューパートナー」が平成三年五月ころに営業を開始したものであることを認定しながら、一審被告ビデオメイツが平成三年九月三〇日に同店にカラオケ装置を搬入・設置した等の事実により、同日ころから一審原告の管理著作物の使用が始まっていたものと推認できるが、同月二九日以前に同店において一審原告の管理著作物が使用されていたことを認めるに足りる証拠はないとした。

しかしながら、一審被告【B】及び一審被告ビデオメイツ代表者は、いずれも原審における本人尋問において、平成三年九月二九日以前から、同店においてカラオケ装置が設置・使用されていた旨を供述しているのであるから、右認定は明らかに誤りであるといわざるを得ない。

3  一審被告ビデオメイツの過失判断について

(一) 原判決は、一審被告ビデオメイツの過失の有無を判断するに当たり、一審被告ビデオメイツが、一審被告【B】と本件各リース契約を締結した際、本物件を営業目的で使用する場合に、一審原告との著作物使用許諾契約締結については、借主の責任で対処するようにとの注意記載のある契約書面を使用し、一審被告【B】に対し該契約締結につき口頭でも説明した事実が認められるとした。

しかしながら、一審被告ビデオメイツ代表者の陳述書(丙第三号証)及び同人の原審における供述中には、右認定に沿う供述記載部分及び供述部分があるものの、一審被告【B】は、原審における本人尋問において、一審被告ビデオメイツ代表者より当初からかかる注意・説明を受けたことはない旨供述している。加えて、一審被告ビデオメイツ代表者の原審における供述は、「パブハウスニューパートナー」におけるカラオケ装置の設置の際に、一審被告【B】に右のような説明をし、その三か月後に「ナイトパブG7」にカラオケ装置を設置した際にも同様の説明をした後、「パブハウスニューパートナー」に関する契約を締結したかどうか尋ねたというものであるが、この順序は専門家たる業者としては不自然である(仮に「パブハウスニューパートナー」におけるカラオケ装置の設置の際に右のような説明をしたのであれば、「ナイトパブG7」においては、先に「パブハウスニューパートナー」に関する契約を締結したかどうかを尋ね、その契約締結の事実を確認した後、該契約は店舗ごとにすべき旨重ねて注意するのが、専門家たる業者の説明方法である。)。さらに、一審被告ビデオメイツ代表者が、本件各店舗に仮処分執行がなされた後に、一審被告【B】のいうことをいとも簡単に信用して、新たなカラオケ機器を本件各店舗に設置したのみならず、「パブハウスニューパートナー」については、新譜の楽曲を一審被告【B】にリースしたカラオケ装置のハードディスクにコピーするという積極的な著作権侵害行為に及び、「ナイトパブG7」についてもやりかねなかった(原審における一審被告ビデオメイツ代表者の供述)ことに照らすと、一審被告ビデオメイツ代表者において、一審原告との契約締結に関し一審被告【B】から嘘をつかれたという気持ちが認められず、該契約締結の重要性を切実に考えてはいなかったことが窺える。これらの点を併せ考えれば、原判決の前記認定は誤りといわざるを得ない。

(二) ところで、リース業者が、業務用カラオケ装置を社交飲食店にリースした場合において、社交飲食店経営者が一審原告の許諾を得ないまま当該カラオケ装置を使用して管理著作物を再生し、客に歌唱させるときは、当然に一審原告の著作権を侵害することになるものであり、カラオケ装置のリース業者の業務は、著作権侵害の結果が発生する危険の極めて高いものである。そして、著作権侵害は、民事上、損害賠償請求、侵害の停止・予防請求、侵害行為に供された機械の廃棄請求の対象となる行為であるのみならず、刑事罰が定められた犯罪行為であって、違法性の高い行為であるから、これを未然に防ぐ必要性は極めて高いものである。

他方、リース業者が、リースしたカラオケ装置を適法に使用するためには一審原告との間で著作物使用許諾契約を締結する必要がある旨をリース契約の相手方である社交飲食店経営者に周知徹底させること、及び社交飲食店経営者が一審原告との間で著作物使用許諾契約を締結し、又はその申込みをしたかどうかを、許諾書若しくは申込書の控え若しくは許諾ステッカーの掲示の有無により、又は一審原告に対する問合せによって確認することは極めて容易であり、そのために不相当な費用の支出を要することもない。すなわち、リース業者には、リース契約の準備、締結、履行、終了の各段階において、著作権侵害の結果を回避するために格別の困難を伴うことなく採り得る方策が存在するのである。

そして、リース業者は、著作権侵害の結果が発生する危険の極めて高い業務を日常的に反復し、しかも、音楽著作物の存在をその存立の基盤とし、これによって営業利益を得ているのであるから、その職業ないし社会的地位に相応した内容の注意義務を負うべきことは当然である。

これらの各点を考え併せると、リース業者は、①社交飲食店経営者とリース契約を締結するまでの間に、当該経営者に対し、カラオケ装置をその営業に使用するためには、一審原告との間で著作物使用許諾契約を締結する必要があることを周知徹底させるべき注意義務を負い、この義務に違反して、漫然とリース契約を締結し、著作権侵害の結果を招来した場合には、過失による幇助の共同不法行為責任を負い、②リース契約の締結後、カラオケ装置の引渡しに先立って、当該経営者が一審原告との間で著作物使用許諾契約を締結したこと、又は少なくとも当該経営者が一審原告に対して右契約締結の申込みをしたことを前記のような確実な資料に基づいて確認すべき注意義務を負い、この義務に違反して漫然とカラオケ装置を引き渡し、著作権侵害の結果を招来した場合には、過失による幇助の共同不法行為責任を負い、③当該経営者にカラオケ装置を引き渡した後においても、随時、著作物使用許諾契約の有無を確認すべき注意義務を負い、この義務に違反して漫然とカラオケ装置のリースを継続し、著作権侵害の結果を招来した場合には、過失による幇助の共同不法行為責任を負い、さらに、④右各場合において、当該経営者が著作物使用許諾契約を締結しないであろうことが相当程度予見し得えたにもかかわらず、リース契約を締結し、当該経営者が著作物使用許諾契約の締結又はその申込みをしていないことが判明したにもかかわらず、カラオケ装置を引き渡し、あるいは著作物使用許諾契約が解除されるなどして有効な契約が存在しないことになったことが判明したにもかかわらず、リース契約を継続してカラオケ装置の引揚げをしなかったようなときには、それぞれ判明後について故意による幇助の共同不法行為責任を負うものと解すべきである。

しかるところ、前記のとおり、一審被告ビデオメイツが、一審被告【B】と本件リース契約を締結した際、一審原告との著作物使用許諾契約締結についての注意記載のある契約書面を使用し、一審被告【B】に対し該契約締結につき口頭でも説明したとの事実は存在せず、むしろ、一審被告ビデオメイツは、一審被告【B】が当該カラオケ装置を使用して著作権侵害を行うことを意に介さないで著作権侵害の結果が発生することを容認していたものと推認されるから、一審被告ビデオメイツは、本件リース契約を締結してカラオケ装置を引き渡した日以降につき、故意による幇助の共同不法行為責任を負うべきものである。

仮に、一審被告ビデオメイツが、著作物使用許諾契約締結についての注意記載のある契約書面を使用し、一審被告【B】に対し該契約締結につき口頭でも説明したとの事実が存在するとしても、一審被告ビデオメイツは、一審被告【B】にカラオケ装置を引き渡すのに先立って、一審被告【B】らが一審原告との間で著作物使用許諾契約を締結したこと又は右契約締結の申込みをしたことを確認せずに、漫然とカラオケ装置を引き渡し、さらに、カラオケ装置の引渡し後において、リース料金の徴収、新曲歌本の配布、カラオケ装置の保守点検等の目的で、毎月、本件各店舗又は一審被告【B】の事務所を訪れていたのに、一審被告【B】らが一審原告との間で著作物使用許諾契約を締結したこと又は右契約締結の申込みをしたことを確実な資料に基づいて確認することをせず、漫然とリース契約を維持したことにより、著作権侵害の結果を招来し、かつ、継続させたのであるから、カラオケ装置の引渡し以後、少なくとも、過失による幇助の共同不法行為責任を負うべきものである。

(三) 原判決は、「通常は、リース業者の口頭又は書面による著作物使用許諾契約の締結の指導があれば、これに従ってリース契約締結時に速やかに原告と著作物使用許諾契約を締結する店舗が多いものと推察できる」(原判決六〇頁六行目から九行目まで)とし、これを前提として、リース業者としては、リース契約の相手方である社交飲食店の経営者に対し、口頭又は書面による著作物使用許諾契約の締結の指導をすれば、原則として注意義務を果たしたということができるものとした。

しかしながら、現実には、社交飲食店の経営者が、カラオケ装置を営業に利用し始める以前に、あるいは利用し始めた後においても、一審原告に対し、著作物使用許諾契約の締結の申込みをする例は皆無といってよく、一審原告による、環境衛生同業組合との間における著作物使用許諾契約書取りまとめに関する協定の締結、社交飲食店経営者に対する著作物使用許諾契約締結のための説得や文書の送付、仮処分申請・訴えの提起というような努力を経た後である平成一一年三月三一日現在においても、契約締結率は、全国平均で六〇・四パーセント、本件各店舗の存する茨城県については五二パーセントにすぎないのであるから、原判決の右判断は前提を欠くものであって失当である。

三  一審被告【B】らの主張

1  一審被告【B】らによる本件各店舗における一審原告の管理著作物の使用開始時期について

原判決は、一審被告【B】らによる本件各店舗における一審原告の管理著作物の使用開始時期を、いずれも一審被告ビデオメイツがカラオケ装置を搬入・設置し、一審被告【B】によるリース料の支払がその日の分から開始された日である、「ナイトパブG7」については平成三年一二月二七日、「パブハウスニューパートナー」については同年九月三〇日と認定した。

しかしながら、一審被告【B】らは、本件各店舗において、フィリピン人女性ダンサーを稼働させて営業をしていたものであり、同人らが来日しなければ、その営業を開始することは不可能であるところ、同人らの入国査証を取得するためには、その申請に当たって、本件各店舗につき風俗営業許可を取得したことを示す資料のほか、店舗の稼働態勢が整っていることなどを示すメニューや店舗内の状況を撮影した写真等の資料を添付することが求められ、かつ、申請から入国査証の取得まで通常約三か月程度の期間を必要とする。

しかるところ、一審被告【B】らが、本件各店舗について、風俗営業許可を取得し、内装工事を終え、カラオケ装置をリースするなどして店舗の稼働態勢を整えたのは、概ね一審被告ビデオメイツがカラオケ装置を搬入・設置した時期である「ナイトパブG7」については平成三年一二月末ころ、「パブハウスニューパートナー」においては平成三年九月末ころであって、それからフィリピン人女性ダンサーらの入国査証を取得して日本に呼び寄せ、実際に営業を開始するにはさらに三か月の期間を要したのである。したがって、実際の営業開始時期は、「ナイトパブG7」については平成四年二月ないし三月ころ、また「パブハウスニューパートナー」については平成三年一二月末ころであり、一審原告の管理著作物の使用開始時期もそれと同時期である。

2  著作権侵害がないことについて

原判決は、一審原告と業務用カラオケソフト製作者との契約では、管理著作物の複製及び店舗への頒布・送信のみが許諾の対象とされ、店舗における管理著作物の再生及びこれに合わせた歌唱については許諾の対象とされていないとした。

しかしながら、平成九年九月二六日付の一審原告と社団法人音楽電子事業協会との間の「業務用通信カラオケによる管理著作物利用に関する合意書」(甲第二〇号証)には、一審原告の管理著作物に係る利用の許諾に関し、受信先(店舗)における演奏・歌唱を除く旨が明記されているが、それ以前の使用許諾契約書類(乙第二三号証の一、第二四号証の一、二、五、第二五号証の一)には、かかる除外文言は存在しない。そして、著作権に関して、複製権のほか、頒布権も独立の支分権とされているところ、一審原告は、複製(録音)を許諾し、その使用料を定めて徴収しているものの、頒布に関する使用料の定めや徴収はしていないのであるから、一審原告がカラオケソフトメーカーに対し、管理著作物の複製(録音)のみを許諾したからといって、それ以外の権利を許諾していないということにはならない。

いわゆる「業務用」カラオケソフトは、広く商業目的での利用が想定されているのであるから、その性質上、複製(録音)について許諾を与えたことにより(前記のように、その許諾は頒布についての許諾を含んでいる。)、頒布先での利用も含めて許諾がなされたものと考えるべきであって、前記甲第二〇号証のように明文によって排除されている場合以外についてまで、頒布先での演奏、歌唱の許諾を排除しているということはできず、したがって、カラオケソフトを制作するために管理著作物を複製する行為と制作されたカラオケソフトを店舗において使用することが別個の行為であるとの理由で、一審原告がカラオケソフト製作者に対し管理著作物について与えた許諾の範囲が、複製と頒布に限られるとした原判決には事実誤認があるといわなければならない。

3  通信カラオケに係る著作物使用料の徴収について

一審原告は、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」の定めに従い、制定及び変更について文化庁長官の認可を受けた著作物使用料規程に基づいて管理著作物の使用料を徴収しなければならないところ、右著作物使用料規程の変更により、通信カラオケに係る著作物使用料が定められて、文化庁長官の認可を得たのは平成九年八月一一日であった。

前記(原判決三九頁七行目から四〇頁二行目まで)のとおり、通信カラオケは、伴奏音楽、歌詞情報を電話回線によって送信し、これを別の媒体に納められた背景画像の再生時にスーパーインポーズ方式によって両者を同一画面上に表示するものであり、その背景画像は音楽とともに記録媒体に固定されたものではなく、また送信・再生される伴奏音楽、歌詞との内容的関連性もなく制作され、再生されるものである。そうすると、通信カラオケは、右変更前の著作物使用料規程(甲第四号証)の「ビデオテープ、ビデオディスクなどに影像を連続して固定したものであって、映画フィルム以外のものをいう」(同号証六三頁)との定義に係る「ビデオグラム」に著作物を録音したものに当たらないことは明白であるから、通信カラオケに関しては、ビデオグラムによるカラオケとしての使用料を徴収できず、オーディオカラオケとしての使用料を徴収できるのみである。しかるに、一審原告は、右著作物使用料規程の変更前から、通信カラオケに関し、ビデオグラムによるカラオケと同一の使用料を請求しているが、かかる請求が、認可を受けた著作物使用料規程によらないものとして、私法上、無効であることはいうまでもない。

したがって、原判決が、一審原告の管理著作物の使用料に基づいて算出認定した一審原告の損害額のうち、通信カラオケに係る部分は、一審原告に損害が生じていないことに帰するから、失当というべきである(なお、一審被告【B】らは、原審において右と同旨の主張をしたが、原判決は、これについて判断をしておらず、判断遺脱の違法がある。)。

4  オーディオカラオケとビデオカラオケとの使用料格差の不合理性について

原判決は、右のカラオケソフトの使用料の格差について、著作権の財産権たる性格に照らすと、著作物の使用を許諾するための料金をどのように定めるかは、本来著作権者の自由であり、何らの不当性はないとした。

しかしながら、一審原告は、自由市場における全くの私人ではなく、著作権者からその著作物の信託譲渡を受けて管理仲介する唯一の独占企業であり、かかるが故に、「著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律」は、認可を経た著作物使用料規程の制定を義務づけて、著作物使用料の適正化を図ろうとしたものである。そうだとすれば、著作物使用料に係る一審原告の定め及びこれに対する認可については合理性がなければならないというべきであり、その内容に不合理、不公平な点があれば、裁量権の逸脱及び公序良俗違反があるといわなければならない。

そして、オーディオカラオケとビデオカラオケに係る著作物使用料に格差を設けることに何らの合理性がないこと、特に通信カラオケに係る著作物使用料をビデオカラオケと同額とすることが不当であることは、前記(原判決三七頁九行目から四〇頁八行目まで)のとおりであり、原判決の前記認定判断は誤りである。

四  一審被告ビデオメイツの主張

原判決は、一審被告ビデオメイツの責任に関し、一審被告【B】が仮処分執行後も著作物使用許諾契約を締結しない可能性があることを十分に予見できたから、一審被告【B】の述べるところを軽信し、一審原告の著作権侵害が生じないような措置を特にとることもなく、漫然とカラオケ装置を再度リースした行為に過失(注意義務違反)が認められるとした。

しかしながら、仮処分執行後の平成七年九月下旬に、一審被告ビデオメイツが一審被告【B】に再度カラオケ装置をリースしたその前後の経緯、及び一審被告ビデオメイツの本件リース契約における立場は、前記(原判決三一頁末行から三三頁一〇行目まで、二九頁末行から三〇頁九行目まで)のとおりであり、右経緯及び一審被告ビデオメイツの立場を考え併せれば、原判決の右認定判断は誤りというべきである。

すなわち、右の経緯に照らして、一審被告ビデオメイツにとって、一審被告【B】が一審原告との間でよもや許諾契約を締結しないなどと予見できるような状況ではなかったのであり、一審被告ビデオメイツが、当然該許諾契約の締結に至ると認識していたことは、「軽信した」として責められるべきものではない。

加えて、一審原告には、一審被告【B】に対するリース業者が一審被告ビデオメイツであることが、右仮処分執行前から判明しており、右執行後の再度のリースをしたリース業者が一審被告ビデオメイツであることも、平成七年九月には判明していた。しかるに、一審原告は、平成八年一二月一二日に警告書の送付をするまでは、一審被告ビデオメイツに対する何らの申入れや問い合わせも行わずにいたものである。

仮に、一審被告ビデオメイツのようなリース業者が、原判決のいう「一般的な注意義務」を負っているとしても、原判決のいう特別の場合である「特段の事情」や「可能性の予見」は、著作権管理を積極的、かつ、厳格に行っている一審原告からの告知もあって初めて明らかなものとなるのであり、一審被告ビデオメイツが、一審原告に対する著作権侵害を未然に防いだり、あるいは停止させるための積極的な措置(引渡し拒否、引揚げ等)をとるためには、許諾契約の締結が特にリース契約の条件となっていない以上、一審原告からの具体的な告知があって初めてリース契約の解除原因が発生し、かかる強力な措置までとれるものと考えるのが、リース契約の趣旨に適うものである。

理由

一  当裁判所も、一審原告の一審被告らに対する請求は、原判決が認容した限度で理由があると判断するものであり、その理由は、次のとおり訂正し、一審原告及び一審被告らの当審における主張に対し、二ないし七のとおり判断するほかは、原判決理由欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四六頁一行目から二行目の「よれば、」までを、「乙第一四、第二七号証(後記措信しない部分を除く。)、丙第三号証並びに原審における一審被告【B】(後記措信しない部分を除く。)及び一審被告ビデオメイツ代表者の各供述によれば、」に改める。

2  同四六頁一〇行目の「これらの」から四七頁四行目の「できない。」までを、「これらの事実によれば、遅くとも同日には、一審被告【B】らが同店を経営しており、また、一審原告の管理著作物の使用をしていた事実を推認することができ、乙第二七号証の供述記載及び一審被告【B】の原審における供述中、これに反する部分を措信することはできない。」に改める。

3  同四九頁一〇行目の「同日ころから」から一一行目の「始まっていた」までを、「遅くとも同日には、一審被告【B】らが一審原告の管理著作物を使用していた」に改める。

4  同五一頁三行目の「被告らの主張1」を「一審被告【B】及び同【C】の反論1」に改める。

5  同五五頁六行目の「被告らの反論1(一)」を「一審被告【B】及び同【C】の反論1」に改める。

6  同六〇頁六行目の「ただ、」から一一行目の「可能であろうが、」までを、「但し、リース契約それ自体が、直接著作権侵害となるものではなく、また、リース契約の相手方である社交飲食店の経営者は、リース業者とは別個の独立した権利義務の主体であり、かつ、その者が、著作物使用許諾契約を一審原告との間で締結すべき法的義務の存在を了知したとすれば、一審原告との間で該契約を締結することに格別の妨げがあるものとは認められないから、リース業者としては、リース契約締結時に、リース契約の相手方である社交飲食店の経営者に対し、口頭又は書面により、該著作物使用許諾契約を締結すべき法的義務のある旨を指導すれば、通常の場合、右配慮義務を果たしたものというべきであるが、」に改める。

7  同六一頁一〇行目の「丙第三号証」を「丙第一ないし第三号証」に改める。

8  同六二頁七行目の「認められ」の次に「(一審被告【B】の原審における供述中、これに反する部分は措信することができない。)」を加える。

9  同六六頁六行目から一一行目までを次のとおりに改める。

「1 甲第四、第五、第七号証及び弁論の全趣旨によれば、平成三年九月以降、本件各店舗においてカラオケ伴奏による歌唱が行われる場合の、一審原告の著作物使用料規程に基づく一曲一回の管理著作物使用料は、本件各店舗が、同規程の業種2(バー、クラブ、カフェーなど酒類の提供を主たる目的とするものであって、ホステス等の社交員の接待が通常伴うもの)に属する座席数八〇席まで、標準単位料金一万円までの社交飲食店に該当するものとして、同規程の別表15に定める生演奏の使用料一七〇円が適用され(同規程第2章第2節4項(社交場における演奏等)の「社交場における演奏等の備考」⑰、甲第四号証二四頁)、これを基礎として算出した本件各店舗についての一か月当たりの使用料は、原判決別表(2)及び同(3)記載の算定方法により、右各表(6)記載のとおり、「ナイトパブG7」、「パブハウスニューパートナー」のいずれについても、七万一四〇〇円であることが認められるから、一審原告が受けた損害額は、本件各店舗について、右一か月当たりの使用料相当額に侵害期間(月数)を乗じ、消費税相当額(平成九年三月まで三パーセント、同年四月以降五パーセント)を加えた額とするのが相当である。そうすると、一審原告の損害は次のとおりとなる(なお、一審被告ビデオメイツ関係の損害は、一審被告【B】ら関係の損害と不真正連帯の関係となる。)。」

10  同六九頁七行目の「被告らの反論2」を「一審被告【B】及び同【C】の反論2」に改める。

二  一審被告【B】らによる「ナイトパブG7」における一審原告の管理著作物の使用開始時期(一審原告の主張1及び一審被告【B】らの主張1)について

1  一審原告は、遅くとも「ナイトパブG7」店舗の賃貸借契約書(乙第一四号証)上の賃貸期間の開始日である平成二年八月二日から、一審被告【B】らが【E】と共同して「ナイトパブG7」を経営し始めたものと主張する。

そして、甲第六号証(一審原告職員【F】の陳述書)には、一審原告の職員が、平成五年一一月八日に同店のマネージャー【G】から、同店の経営者が一審被告【C】であり、同人が平成二年から同店を経営している旨聴取したとの供述記載があるが、【G】が平成二年八月当時から同店に勤務していたか否か、勤務していなかったすれば、同人がそのように述べたのはどのような資料ないし根拠に基づくものであるか等を明らかにする証拠はなく、そうであれば、右供述記載の内容を直ちに信用することはできない。なお、一審被告【B】の原審における供述中には、一審被告【C】が開店の当初から同店の経営を手伝っていた旨の供述部分があるが、同供述部分は、その「開店の当初」が平成四年一、二月ころであることを前提とすることが明白であり、右供述部分が甲第六号証の右供述記載を裏付けるものではない。

また、乙第一四号証、原審における一審被告【B】の供述によれば、【E】が同店のような店舗の経営に経験がなかったこと、右賃貸借契約書(乙第一四号証)上、一審被告【B】が、借主である【E】の連帯保証人となっている事実が認められるが、かかる事実から、一審被告【B】らが、賃貸期間の開始日である平成二年八月二日に、【E】と共同して「ナイトパブG7」の経営を開始したとの事実を直ちに推認することはできない。

以上のほか、平成二年八月二日においてはもとより、平成三年一二月二六日以前の特定の日においても、一審被告【B】らが「ナイトパブG7」の経営に加わっていたことを認めるに足りる証拠はないから、同日以前から同店が営業されており、あるいは同日以前にカラオケ装置が同店に設置されていようとも、一審被告【B】らが、同店において一審原告の管理著作物の使用をしていたことを認め得るのは、平成三年一二月二七日以降であるといわざるを得ない。

よって、一審原告の前示主張は理由がない。

2  一審被告【B】らは、「ナイトパブG7」の営業で稼働させていたフィリピン人女性ダンサーの入国査証の取得には、カラオケ装置をリースするなどして店舗の稼働態勢を整えてからその申請をし、取得までに約三か月程度の期間を要するとして、同人らによる「ナイトパブG7」の営業開始時期が平成四年二月ないし三月ころであり、一審原告の管理著作物の使用開始時期もそれと同時期であると主張する。

そして、乙第二七号証(一審被告【B】の陳述書)の供述記載及び一審被告【B】の原審における供述中には、右主張に沿う部分があるが、前示(原判決四六頁四行目の「被告」から一〇行目の「認めることができ、」まで)のとおり、「ナイトパブG7」において、平成三年一二月二七日に一審被告ビデオメイツによってカラオケ装置が設置され、直ちに使用可能な状態となり、同日分からリース料が発生して、一審被告【B】が遅滞なくこれを支払ったことが認められるのであるから、仮に、フィリピン人女性ダンサーの入国査証の取得時期が平成四年二月ないし三月ころであったとしても、カラオケ装置を使用した営業は、平成三年一二月二七日以降にはなされていたと推認することが合理的であり、乙第二七号証の供述記載及び一審被告【B】の原審における供述中、これに反する部分を措信することはできず、右主張を採用することはできない。

三  一審被告【B】らによる「パブハウスニューパートナー」における一審原告の管理著作物の使用開始時期(一審原告の主張2及び一審被告【B】らの主張1)について

1  一審原告は、一審被告【B】及び一審被告ビデオメイツ代表者が、原審において、平成三年九月二九日以前から、「パブハウスニューパートナー」においてカラオケ装置が設置・使用されていた旨を供述しているのであるから、同日以前に同店において一審原告の管理著作物が使用されていたことを認めるに足りる証拠はないとした認定が誤りであると主張するが、仮に右各供述によって、平成三年九月三〇日よりも前から同店にカラオケ装置が設置されていたこと自体は認められるとしても、その装置の種類やリース業者等の具体的事実のみならず、その装置が具体的にいつから設置され、使用されていたかを認めるに足りる証拠がないから、結局、一審被告【B】らが、同店において一審原告の管理著作物の使用をしていたことを、本件証拠上明確に認め得るのは、平成三年九月三〇日以降であるといわざるを得ず、一審原告の右主張は理由がない。

2  一審被告【B】らは、「パブハウスニューパートナー」の営業で稼働させていたフィリピン人女性ダンサーの入国査証の取得には、カラオケ装置をリースするなどして店舗の稼働態勢を整えてからその申請をし、取得までに約三か月程度の期間を要するとして、「パブハウスニューパートナー」の営業開始時期が平成三年一二月末ころであり、一審原告の管理著作物の使用開始時期もそれと同時期であると主張するが、かかる事実を認めるに足りる証拠はなく、前示(原判決四九頁五行目の「被告」から一〇行目の「認めることができ」まで)のとおり、「パブハウスニューパートナー」において、平成三年九月三〇日に一審被告ビデオメイツによってカラオケ装置が設置され、直ちに使用可能な状態となり、同日分からリース料が発生して、一審被告【B】が遅滞なくこれを支払ったことが認められるのであるから、カラオケ装置を使用した営業は、平成三年九月三〇日以降にはなされていたと推認することが合理的であり、右主張を採用することはできない。

四  一審被告【B】らに著作権侵害がないとの主張(一審被告【B】らの主張2)について

一審被告【B】らは、いわゆる「業務用」カラオケソフトは、広く商業目的での利用が想定されているのであるから、その性質上、複製(録音)について許諾を与えたことにより、頒布先での利用も含めて許諾がなされたものと考えるべきであるとの前提により、一審原告がカラオケソフト製作者に対し管理著作物について与えた許諾の範囲が、複製と頒布に限られるとすることは事実誤認であるとして縷々主張するが、右主張は、独自の見解を前提とするものであって、採用することを得ない。

一審被告【B】らは、右主張の根拠として、使用許諾契約書類(乙第二三号証の一、第二四号証の一、二、五、第二五号証の一)において、一審原告の管理著作物に係る利用の許諾に関し、受信先(店舗)における演奏・歌唱を除く旨の除外文言が存在しないとか、一審原告は、複製(録音)を許諾し、その使用料を定めて徴収しているものの、頒布に関する使用料の定めや徴収をしていないのであるから、一審原告がカラオケソフトメーカーに対し、管理著作物の複製(録音)のみを許諾したからといって、それ以外の権利を許諾していないということにはならない等と主張するが、乙第二三号証の一、第二四号証の一、二、五、第二五号証の一によれば、右各使用許諾契約書類(録音物制作者の音楽著作物使用許諾申請書と一審原告の音楽著作物使用許諾書が一葉の用紙に作成されたもの)においては、その記載から見て、音楽著作物の録音(複製)と頒布を許諾の対象とし、この両行為について、一括して使用許諾申請と使用許諾がなされているものと認められる(頒布を許諾の対象としていることは、例えば、各契約書類の「使用許諾条件」4項が頒布を前提としていることなどによって明らかである。)反面、頒布先での演奏(歌唱)が許諾の対象とされているものと解すべき記載が全くないから、契約書類の文言の解釈上、右各契約書類に係る契約において、頒布が許諾の対象とされており、たとえ、演奏・歌唱を除く旨の除外文言が存在しないとしても、頒布先での演奏(歌唱)が許諾の対象とされていないことは極めて明白であり、したがって、一審被告【B】らの右主張は理由がない。

五  一審被告ビデオメイツの過失(一審原告の主張3及び一審被告ビデオメイツの主張)について

1  一審原告は、本件各リース契約締結の際に、一審被告ビデオメイツが、本物件を営業目的で使用する場合に、一審原告との著作物使用許諾契約締結については、借主の責任で対処するようにとの注意記載のある契約書面を使用し、一審被告【B】に対し該契約締結につき口頭でも説明した事実が認められるとした認定が誤りであるものと主張し、右認定事実が不存在であることを前提として、一審被告ビデオメイツにおいては、一審被告【B】がリースに係るカラオケ装置を使用して著作権侵害を行うことを意に介さないで著作権侵害の結果が発生することを容認していたものと推認されるから、本件リース契約を締結してカラオケ装置を引き渡した日以降につき、故意による幇助の共同不法行為責任を負うべきものであると主張する。

しかしながら、一審原告が前示認定が誤りであることの根拠とする、一審被告ビデオメイツ代表者が「ナイトパブG7」にカラオケ装置を設置した際の説明の順序が不自然であるとの点に関しては、リース業者において、社交飲食店経営者との間でカラオケ装置のリース契約を締結する際に、一審原告との著作物使用許諾契約締結の必要を説明するに当たり、同一の社交飲食店経営者との間で別店舗に係るカラオケ装置のリース契約が先行していたとしても、特に定まった説明の方法又は順序があるものと認めるべき証拠はなく、一審被告ビデオメイツ代表者の説明の順序が特に不自然であるとは認められない。

また、一審原告は、本件各店舗に対する仮処分執行後に、一審被告ビデオメイツが、一審被告【B】の依頼により新たなカラオケ機器を本件各店舗に設置したことに照らして、一審被告ビデオメイツ代表者において、一審原告との契約締結に関し一審被告【B】から嘘をつかれたという気持ちが認められないとか、該契約締結の重要性を切実に考えてはいなかった等と主張するが、右仮処分執行後に、一審被告ビデオメイツが、一審被告【B】の依頼により新たなカラオケ機器を本件各店舗に設置したとの事実に基づいて、直ちに、本件各リース契約締結の際に一審被告ビデオメイツが、前示注意記載のある契約書面を使用しなかったとか、一審被告【B】に対する口頭での説明をしなかったとの事実が推認されるものとはいえないから、右事実は前示認定を覆すに足りない。

したがって、一審原告の前示主張は、その前提を欠くものであって、理由がない。

2  一審原告は、リース業者が、社交飲食店の経営者との間のカラオケ装置のリース契約の締結後、カラオケ装置の引渡しに先立って、当該経営者が一審原告との間で著作物使用許諾契約を締結したこと、又は少なくとも当該経営者が一審原告に対して右契約締結の申込みをしたことを確実な資料に基づいて確認すべき注意義務を負い、あるいは、カラオケ装置を引き渡した後においても、随時、著作物使用許諾契約の有無を確認すべき注意義務を負うとし、一審被告ビデオメイツが、これらの義務に違反して一審被告【B】にカラオケ装置を引き渡し、あるいはカラオケ装置のリース契約を継続したことにより、著作権侵害の結果を招来し、継続させたのであるから、過失による幇助の共同不法行為責任を負うものと主張する。

しかしながら、一般的にカラオケ装置が一審原告の著作権を侵害する危険があるとはいえても、その危険が極めて高いことまでを認めるに足りる証拠はないうえ、前示のとおり、カラオケ装置のリース契約それ自体が、直接著作権侵害を構成するものではなく、また、リース契約の相手方たる社交飲食店の経営者は、リース業者とは別個の独立した権利義務の主体であり、かつ、該経営者が、著作物使用許諾契約を一審原告との間で締結すべき法的義務の存在を了知したとすれば、一審原告との間で該契約を締結することに格別の妨げがあるものとは認められないのであるから、リース業者としては、リース契約締結時に、その相手方である社交飲食店の経営者に対し、該著作物使用許諾契約を締結すべき法的義務のある旨を指導して、これを了知させれば、該経営者が、これに従わないであろうことを予見し、あるいはこれに従っていないことを認識すべき特段の事情がない限り、通常は、該経営者が、かかる法的義務に従い、一審原告との著作物使用許諾契約を締結するものと考えて差し支えないというべきであり、該経営者がかかる法的義務を了知したにもかかわらず、リース業者において、リース契約の締結後、カラオケ装置の引渡し前に、当該経営者が、一審原告との間で著作物使用許諾契約の締結又はその申込みをしたことを確認すべき注意義務であるとか、カラオケ装置を引き渡した後においても、随時、著作物使用許諾契約の有無を確認すべき注意義務などを、一般的に負うものと解することはできない。

したがって、一審原告の前示主張は理由がない。

3  他方、一審被告ビデオメイツは、仮処分執行後の平成七年九月下旬に、一審被告ビデオメイツが一審被告【B】に再度カラオケ装置をリースしたことに関して、一審被告【B】に、一審原告とのトラブルを解決し、正式な著作物使用許諾契約を締結することを誓約させたこと、一審被告【B】から、弁護士を通じて一審原告と和解交渉中である旨聞かされたこと、一審原告から特段の警告、申入れ、通知等がなかったことを理由に、一審被告ビデオメイツに過失がなかった旨主張するが、前示(原判決六四頁七行目から六五頁八行目まで)のとおり、一審被告ビデオメイツが、仮処分執行の事実を認識した以上、そのことによって、一審被告【B】がその後も著作物使用許諾契約を締結しない可能性を予見し得るに至ったものと認められるから、一審被告ビデオメイツには、カラオケ装置を再度リースするに当たって、該著作物使用許諾契約締結の事実を確認してから、カラオケ装置を引き渡すなどの一審原告の著作権に対する侵害が生じないような措置をとるべき注意義務があったものというべきであり、一審被告【B】に前示の誓約をさせたのみでは足らず、また、引渡し後に前示和解交渉に関する話を聞き、あるいは、一審原告から特段の警告、通知等がなかったとしても、一審被告ビデオメイツの右注意義務違反が解消するものとはいうことはできない。

したがって、一審被告ビデオメイツの右主張も理由がない。

六  通信カラオケに係る著作物使用料の徴収(一審被告【B】らの主張3)について

一審被告【B】らは、平成九年八月一一日の変更認可前の一審原告の著作物使用料規程においては、通信カラオケが、「ビデオグラム」に著作物を録音したものに当たらないから、ビデオグラムによるカラオケとしての使用料を徴収できず、オーディオカラオケとしての使用料を徴収できるのみであり、一審原告の管理著作物の使用料に基づいて算出認定した一審原告の損害額のうち、通信カラオケに係る部分は、一審原告に損害が生じていないと主張する。

しかしながら、甲第四号証によれば、平成元年三月二九日変更認可後の一審原告の著作物使用料規程の第2章第2節4項(社交場における演奏等)の「社交場における演奏等の備考」⑰(同号証二四頁)は、本件各店舗が属する業種2(バー、クラブ、カフェーなど酒類の提供を主たる目的とするものであって、ホステス等の社交員の接待が通常伴うもの)を含む各業種において、カラオケ伴奏による歌唱が行われる場合の一曲一回の使用料は、各業種に適用される別表15から別表18までに定める生演奏の使用料とする旨を定めており、該カラオケ伴奏がオーディオカラオケによるものか、ビデオグラムによるカラオケかを区別していないことが認められるところ、本件において、一審原告の受けた損害額を、該規定に基づいて、別表15に定める生演奏の使用料を基礎として算出すべきことは前示一の9のとおりであり、そうすると、本件においては、通信カラオケが、「ビデオグラム」に著作物を録音したものに当たるか否かによって、損害額に相違が生ずるわけではなく、原判決が、ことさらこれをいずれかに特定して損害額を算定したものでもない。

したがって、一審被告【B】らの前示主張は、明らかに主張自体失当というべきである。

なお、一審被告【B】らは、原判決が、右主張に対する明示的な判断をしていないことを捉えて、判断遺脱の違法があるとも主張するが、明らかに主張自体失当である右主張に対し明示的な判断をしなかったからといって、直ちに違法であるものということはできない。

七  オーディオカラオケとビデオカラオケとの使用料格差の不合理性(一審被告【B】らの主張4)について

一審被告【B】らは、オーディオカラオケとビデオカラオケに係る著作物使用料に格差を設けることに何らの合理性がないと主張するが、前示(原判決七〇頁一行目から七行目まで)のとおり、一般的に、著作物の使用によって、使用許諾を受ける者が生み出す経済的価値ないし利益の程度を勘案して使用料を定めることに不当性はないのみならず、本件において、一審被告【B】らの不法行為に係る損害額の算定に当たって、その基準とする使用料にオーディオカラオケとビデオカラオケの別による相違がないことは、右六のとおりであるから、一審被告【B】らの右主張も理由がない。

八  以上によれば、原判決は正当であって、本件各控訴は理由がないから、これをいずれも棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、六七条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例